ぞっとする怪談 友人が語る「明るくなる秘訣」
スマートフォンの液晶が、深夜の自室を青白く照らし出す。表示された「シドウ」の名に、イケダは一瞬だけ指を止めた。大学時代、あれほど快活だったシドウは、就職して二年が経つ頃には、まるで魂を吸い取られたかのように痩せこけ、電話越しでもわかるほど暗い影を落としていたからだ。
「……もしもし、シドウ?」
恐る恐る出たイケダの耳に飛び込んできたのは、予想に反した、弾けるような笑い声だった。
「よう、イケダ! 元気してたか? いやあ、悪いな!こんな時間に!」
その声は、学生時代のシドウそのものだった。いや、それ以上に「明るすぎる」とさえ感じられた。イケダは戸惑いながらも、その変化を尋ねた。
「お前、ずいぶん元気…というかハイだな。何かあったのか?」
「ああ、それな。ちょっとしたコツを掴んだんだよ。『思考回路を変えた』んだ。全部、割り切るようにしたら、世界がパッと明るくなってさ。」
シドウは饒舌だった。仕事の不満、将来の不安、それらすべてを「物理的に切り離した」のだと、彼は笑った。そして、聞いてもいないことをペラペラと捲し立てる。彼が語れば語るほど、イケダの背筋には冷たい這いずるような不快感が募っていった。そしてイケダはあることに気づいた。電話の向こう側から妙な音がすることに。
「……なあ、シドウ。さっきから聞こえるその音、何なんだ?」
電話の向こうからは、時折「ピチャ……ピチャ……」という、濡れた肉を叩くような音が混じっているのです。
「ああ、これか? 気にしないでくれ。今、ちょっとした整理整頓をしてるんだ。不要なものを捨てれば、心はもっと軽くなる。イケダ、お前も『重い』だろ? 腕とか、足とか。全部自分のものだと思うから疲れるんだよ。ただの肉の塊だって割り切れば、痛みなんて、ただの信号に過ぎないんだ。」
シドウの声が、さらに一段、明るさを増しました。
「今ね、左足を『割り切った』ところなんだ。次は、この重たい頭をどうしようかと思ってさ。」
その瞬間、受話器越しに「ギチッ、ギチリ……」という、骨が軋む生々しい音が響き渡った。イケダが凍りついていると、シドウは至福に満ちたため息をつき、こう囁いたのだ。
「ほら……また少し、軽くなったよ。」
そして、そこからシドウは何も語らず、電話からはピチャピチャと血が滴るような音だけが流れるのだった。