
これは、知人から聞いた、今もなお終わりの見えない恐怖の物語…。
肝試しで山男の住処へ…。その末路とは。
息子のたけしが行方不明になって、もうどれくらいの時間が経ったでしょうか。警察の捜査も、いつの間にか打ち切られてしまいました。ですが、私だけは今も探し続けているのです。あの真っ暗な山のどこかにいるはずの、私のたけしを…。
全ては子供たちの間で囁かれていた、くだらない噂話から始まりました。
「あの山には、“山男”が住んでいる」
小学校の裏手にそびえる鬱蒼とした山。その中腹にポツンと立つ廃屋が、山男の家だというのです。正体は誰も知りません。人なのか、物の怪なのか…。ただ、その存在は子供たちの間で確かな恐怖として根付いていました。
そんな中、くだらない度胸試しが流行りだしたのです。年上の子たちが、年下の子に無理難題をふっかける、あんなものはイジメと何ら変わりません。
あの日、たけしの一個上のたかしというガキ大将が、私の息子にこう命令したそうです。
「お前、本当に男なら山男の家に小便ひっかけてこいよ」
たけしは気の弱い子でした。断れるはずもありません。震えながら頷く息子の姿が、目に浮かぶようです。
夕暮れ時、たけしは一個下のやすと君を連れて、山へ向かいました。やすと君は怖がって山の入り口で待っていたそうです。たけしが一人、廃屋へと続く細い獣道を進んでいくのを木の陰から見ていたと。
後から聞いた話では、やすと君は確かに「見た」というのです。
ボロボロの廃屋に、たけしが恐る恐る近づいていった、その時。
ギィ…と、錆びついた音がして、廃屋の扉がゆっくりと開いた。そして、中から現れた“何か”が、たけしの腕を掴み、瞬く間に家の中へと引きずり込んでしまった、と。
やすと君は、あまりの恐怖に声も出せず、そのまま気を失ってしまったそうです。私たちが彼を見つけた時、彼はただガタガタと震え、虚空を見つめるだけでした。あの日以来、やすと君は身に起きたことを私たちに話して以降、言葉を失ってしまったのです。
大規模な山狩りが行われましたが、たけしは見つかりませんでした。廃屋の中は、ただ埃が積もっているだけで、人の住んだ形跡すらありませんでした。
数日後、更なる悲劇が起こります。
たけしに命令した、あのたかし君が、山で遺体となって発見されたのです。警察は「滑落事故」として処理しましたが、第一発見者だった消防団の人の話では、とてもそんな状態ではなかった、と。まるで、巨大な何かに締め上げられ、全身の骨が内側から砕かれたような、異様な姿だったそうです。
それからです。言葉を話せなくなったやすと君が、時々、奇妙な行動をとるようになったそうです。聞いた話によると、夜中に突然起き上がると、窓に駆け寄り、じっとあの山の闇を見つめているのです。そして、喉の奥から「ヒッ、ヒッ」と、引きつったような息を漏らし、カタカタと震えながら、ゆっくりと山の方向を指さすのだそうです。
その指の先にあるのは、深い、深い闇だけ。
山男とは、一体何だったのか。たかし君を殺し、たけしを連れ去ったのは、本当に“それ”だったのか。何も分かりません。
ただ一つだけ、確かなことがあるのです。
今夜も、風の強い晩になると、あの山の方から微かに聞こえてくるのです。
少年の、泣き叫ぶ声が…。
私は、今も信じています。たけしは、あの山のどこかで、助けを待っているのだと。
だから、私は探し続けるのです。この身がどうなろうとも…。