三連休の悪夢
秋の始まりを告げる金木犀の香りが街を包み込む9月。藤井満博は、3連休に家族でディズニーランドへ行く計画を立てていた。それは、妻の晶子と高校生の娘、息子の4人が心待ちにしていた、年に一度の特別な旅行だった。
満博は、幼稚園の頃からサッカーに夢中だった。高校時代には俊足サイドハーフとして名を馳せ、今もその情熱は冷めていない。旅行前の週末、彼はサッカー仲間と久しぶりに試合をする約束をしていた。
「久しぶりだな、満博!」
グラウンドで再会した仲間たちは、満博の登場に笑顔で迎えた。試合が始まると、高校時代を彷彿とさせる満博のプレーに、皆から歓声が上がった。しかし、楽しい時間は長くは続かなかった。
後半戦、相手チームの岩倉とボールを競り合った瞬間、満博の足首に激痛が走った。バランスを崩し、地面に倒れ込む満博。その場に立ち尽くす仲間たち。まるでスローモーションのように、周りの景色が歪んで見えた。
「うっ…。」
激痛に耐えながら、歯を食いしばる満博。駆け寄ってきた仲間の顔は、心配そうに曇っていた。救急車で病院に運ばれた満博は、右足骨折の診断を受けた。全治2ヶ月。夢にまで見たディズニー旅行は、儚く消え去ってしまった。
「嘘でしょ…。」
病室のベッドに横たわり、茫然とする満博。天井の蛍光灯が、まるで満博の心を嘲笑うかのように、冷たく光っていた。
一方、自宅では、晶子が子供たちに事情を説明していた。
「お父さん、サッカーで怪我をしてしまってね…。旅行は、キャンセルになったの。」
娘と息子は、信じられないといった表情で言葉を失った。楽しみにしていた旅行が、父親の趣味のせいで台無しになったのだ。
「もう、お父さんったら…。」
娘は、唇を噛みしめながら呟いた。息子も、深くため息をついた。
数日後、満博は退院したものの、ギプスで固定された右足は思うように動かせない。松葉杖なしでは歩くこともままならない。
「ただいま…。」
重い足取りで家に入る満博。リビングでは、晶子と子供たちがテレビを見ていたが、満博の姿を見るなり、3人とも顔をしかめた。
「おかえりなさい。…で、いつまでその足なの?」
晶子の声は、氷のように冷たかった。
「え、えーっと、先生からは2ヶ月くらいって言われてるんだけど…。」
満博は、恐る恐る答えた。
「2ヶ月!? じゃあ、来月の運動会も無理ってことよね?」
「そ、それは…。」
「はぁ…。本当に、何やってるのよ。」
晶子は、呆れたようにため息をついた。娘と息子も、冷たい視線を満博に向けた。
それからというもの、満博は家の中で肩身の狭い思いをするようになった。食事の時は、一番最後によそわれる。お風呂も一番最後。リビングでくつろいでいても、3人の視線を感じて落ち着かない。まるで、透明人間になったかのような気分だった。
「お父さん、お茶。」
娘が冷たいお茶を差し出してきた。
「あ、ありがとう…。」
満博がお茶を口にすると、それはまるで、娘の冷めた心のように冷たかった。
(ああ、俺はなんてことを…。)
満博は、心の中で深く反省した。しかし、時すでに遅し。家族の心を取り戻すには、長い時間がかかりそうだった。
満博は、半年間、家族の冷たい仕打ちに耐え続けた。そして、ようやくギプスが取れた時、彼は家族に心からの謝罪をした。
「本当に、ごめんなさい。僕のせいで、みんなを悲しませてしまって…。」
満博の言葉に、晶子の目には涙が浮かんでいた。
「もう、いいのよ。あなたも、辛い思いをしたでしょう…。」
娘と息子も、満博に笑顔を見せた。
「お父さん、おかえりなさい!」
子供たちの言葉に、満博は胸がいっぱいになった。
あの日から、満博は家族との時間を何よりも大切にするようになった。そして、二度と家族を悲しませるようなことはしないと心に誓ったのだ。
冬の冷たい風が吹き荒れる夜、満博は家族4人で暖炉を囲んでいた。炎の温かさが、家族の絆を優しく包み込む。
「来年は、どこに行こうか?」
満博の言葉に、子供たちは目を輝かせた。
「今度は、僕が計画する!」
息子の言葉に、満博は嬉しそうに笑った。窓の外では、雪が静かに降り積もっていた。それはまるで、家族の新しいスタートを祝福しているようだった。