Zeronicle Story

創作した話や絵を中心に綴るブログ

創作:たけおの災難 #最終回

登場人物

  • 安藤たけお:主人公。中小企業の係長。上司の桜庭に辟易としている。退職することを決意。桜庭とやすしの会話を聞いてしまい…。
  • 桜庭としひろ:たけおの上司。課長。管理職の器でないとみんなに思われている。本人は気付いていない。
  • 安藤よしえ:たけおの妻。
  • 池田やすし:たけおの部下。人懐っこい。しかし、桜庭と近づいていて…

たけおの災難 #最終回

たけおの心にはどす黒い疑念が渦巻いていた。それはまるで、底なし沼のように、彼をゆっくりと飲み込んでいくようだった。しかし、たけおは知らなかった。やすしは、たけおと桜庭の知らないところで、別の計画を進めていたのだ。
ある夜、やすしは人気のないカフェである人物と向かい合っていた。その人物は、社内の不正を監視する内部監査部の担当者だった。
「桜庭課長は、たけおさんに、顧客情報漏洩の濡れ衣を着せようとしています。私は、それを阻止したいんです」
やすしは、内部監査部の担当者に、桜庭の悪事を詳細に説明した。そして、桜庭が立てた「たけおを陥れるための計画」を打ち明けた。
「まさかそんなことが…。わかりました。そんなことはあってはなりません。協力しましょう」
内部監査部の担当者はやすしの熱意に心を打たれ、協力を約束した。
その夜、やすしはたけおを屋上に呼び出した。夜空には、無数の星が輝いている。まるで、宇宙という広大なキャンバスに散りばめられた宝石のように。
「たけおさん、こんな時間にすみません。お話したいことがあります。実は…」
やすしは深呼吸をして、すべてを打ち明けた。桜庭から「たけおに迷惑をかけるようなトラブルを起こせ」と命令されたこと。しかし、やすしはたけおを裏切るつもりはなく、桜庭の悪事を暴くために偽のトラブルを仕掛ける計画を立てていること。
「…そうだったのか」
たけおはやすしの言葉に驚くも、たけおの心にしみわたった。まるで乾いた大地に降る恵みの雨のように。
「でも、なぜ…?」
たけおは、まだ戸惑っていた。なぜやすしは、そこまでして自分を助けてくれるのか。
「たけおさんは、僕が今まで出会ったことのない素晴らしい上司だからですよ。いつも僕を励まし、導いてくれました。僕はそんなたけおさんを本当に尊敬しているんです。」
やすしの言葉は、たけおの心に響いた。澄み切った青空に響き渡る鐘の音のように。その音は清らかで、力強いものだ。
「やすし…」
たけおはやすしの肩に手を置いた。彼の心は温かい光で満たされていた。春の陽だまりのように、優しく、そして穏やかだった。
「実は、やすしが何かに耐えているとき、両手のこぶしを強く握る癖があることに気づいていたんだ。桜庭と話しているときも、そうだったね」
たけおは、静かに言った。やすしは、驚き、そして、少し恥ずかしそうに、目を伏せた。
「そこ見ていたんですか。なんだか恥ずかしいですね。」


数日後、桜庭はたけおを陥れるための引き金を引くため、やすしに合図を送った。
やすしはその合図を受け、大袈裟に叫んだ。
「ああ!係長のPCがおかしくなってます!何をやったんですか!?係長は!」
桜庭はたけおの顔を覗き込んだ。
「おまえ、なにやってんだよ!」
たけおの顔は蒼白で、額には脂汗が浮かんでいる。彼のPCの画面には、エラーメッセージが表示され、何やら不穏なプログラムが実行されているように見えた。しかし、これは、やすしと内部監査部の担当者が仕組んだ偽装工作だった。
「す、すみません。自分にもよくわからなくて…!」
たけおは、わざと驚いた表情を見せた。
「これは、明らかに情報漏洩にかかわる事件だろ! たけお君、君は何を企んでいるんだ!大問題だぞ!」
桜庭は、たけおを責め立てた。彼の目は、怒りで燃えている。
その時、やすしが、冷静な口調で言った。
「桜庭係長、落ち着いてください。」
「落ち着いていられるか!我が部の機密事項が外部に漏れたんだ!」
桜庭は、やすしの言葉を一蹴した。そのときだった。
「外部に漏れることはないです。なぜなら昨夜からこの部のネットワークは外部に接続できないようにしていますからね。」
桜庭が振り向くと、そこにはシステム部の部長と外部監査の担当がいた。
「な、なぜシステム部と外部監査の方がここに?」
桜庭は、言葉を詰まらせた。外部監査の担当が口をひらく。
「ある筋から情報を得ていてね。ネットワークの設定を変えさせてもらったんです。」
システム部長が続けていう。
「それにもかかわらず君は外部に情報が漏れたと断定していたね。なぜかな?」
たけおは大きく息を吐いた。
「いや、私はそんなことは言ってないですよ。ま、まったく」
やすしはスマホを掲げ、画面をタップした。
『落ち着いていられるか!我が部の機密事項が外部に漏れたんだ!』
それは間違いなく桜庭の声だった。桜庭は観念したように床にへたり込んだ。焦りから失言をしてしまったことに気付いた彼の顔は、まるで死人のように青ざめていた。
その瞬間、やすしは、心の中でガッツポーズをした。
(これで、桜庭は終わりだ…)
やすしは、勝利を確信した。

やすしは桜庭の失言を証拠に上層部に訴えた。それが火種となり、桜庭の横領やパワハラなど多くの問題が噴出した。まるでずっと眠っていた火山が噴火したように。
上層部は桜庭の悪行を重く見て、彼を解雇した。
桜庭が去った会社は、まるで、重苦しい雲から解放された青空のように、晴れやかだった。たけおはやすしをはじめ、自分を支えてくれた人たちに感謝の気持ちを伝えた。そして、残りの有休を消化し、新しい転職先へと旅立った。

たけおは新しい会社で自分の能力を最大限に発揮し大きく飛躍した。大海原を自由に泳ぐイルカみたいに。
ある日、たけおはやすしから桜庭の近況を聞いた。
「桜庭さん、解雇された後、どこにも就職できずに、貯金を食いつぶしているらしいですよ。奥さんにも愛想を尽かされて、離婚されたそうです」
やすしの言葉にたけおは複雑な気持ちになった。桜庭は確かにひどいことをしたが、ここまで不幸になるとは想像もしていなかった。
「因果応報ってやつですね…」
やすしは苦笑いをしてコーヒーを飲んだ。たけおは何も言わずに、ただ夜空を見上げていた。夜空には、無数の星が輝いていた。星たちはまるで人間の運命の複雑さを映し出す鏡のようだとたけおは思った。

「それじゃ、係長…じゃなかった。たけおさん。またたまにはこうして話しましょうね。」
「あぁ。やすしも頑張ってくれよ。応援しているぞ。」

たけおの胸には情熱の炎が灯っていた。その炎は困っている人たちの道を照らすが如く強く、明るい炎だった。