Zeronicle Story

創作した話や絵を中心に綴るブログ

創作:たけおの災難 #4

登場人物

  • 安藤たけお:主人公。中小企業の係長。上司の桜庭に辟易としている。退職することを決意。
  • 桜庭としひろ:たけおの上司。課長。管理職の器でないとみんなに思われている。本人は気付いていない。
  • 安藤よしえ:たけおの妻。
  • 池田やすし:たけおの部下。人懐っこい。

たけおの災難 #4

会議が終わった後、やすしがたけおのところにやってきた。顔が紅潮しその表情からも怒りが見て取れる。

「課長の言っていること、だんだんエスカレートしてます。これ、問題ですよ。係長はこのままでいいんですか?」

やすしは早口でまくし立てた。たけおはたけおで怒っているが、やすしの怒りはそれ以上のようにも見える。

「あと少しで辞めることになるから、なるべく平穏でいたいんだよ。」

たけおはどこか諦めた表情で、やすしに答えた。

「係長…。わかりました。失礼します。あ、前にも言いましたけど、俺は係長の味方ですからね。失礼します。」

そういってやすしは会議室を出て行った。たけおはこのまま耐えるべきなのか、それとも何か行動を起こすべきなのか迷うようになっていた。たけおとしてはあと2週間もすれば休暇を取り、桜庭とは別れることになるのでそのままでもいいと思っている。しかし、行動を起こさないことで、やすしの精神を削られ、消耗しているような気がしてならない。それがたけおの気がかりだった。

たけおは会議室を出て、扉の横に設置してある自動販売機で缶コーヒーを購入し、そのままぐいっと飲み干した。空になった缶を備え付けのごみ箱にいれると、カランと乾いた音を立てた。ふぅっと一息ついて、自分の席に戻ってメールで引き継ぎ資料を桜庭に送った後に桜庭の席に向かった。桜庭はパソコンの画面をにらみながら、難しそうな顔をしていた。

「課長、今よろしいですか?」

たけおはそう声をかけると、面倒そうな顔をして返事をした。

「んん?何?」

「さきほどメールで引き継ぎ資料と引き継ぎ計画を送付したので、確認していただけませんか?」

「メール?あぁ、来てるな。見てみるか。」

そういうと桜庭はたけおが作った引き継ぎ資料を開いた。たけおと一緒に画面を見る桜庭。一通り資料を読み終えた桜庭が

「まぁいいんじゃないの。迷惑をかけないようにしっかりしてくれよ。」

「…。ありがとうございました。」

もっと必要以上にネチネチ行ってくるんじゃないかと思っていたが、割とスムーズに進んだ。少し拍子抜けではあったが、トラブルがなかったのはいいことだと思うことにした。桜庭の承認を得ることができたので、あとは引き継ぎ資料の内容をプロジェクトメンバーに共有すればいいだけだ。

会議室と時間を抑え、アナウンスのメールを送った。そのあと、どのような段取りで引継ぎをするかをノートに列挙した。頭の中を整理するのはノートを使うに限る。そこでまとめた内容を「清書」として、PCに再度アウトプットするのがたけおのやり方だった。ノートには思ったように書ける。書き直しもすぐできる。昨今ではいろいろなところでデジタル化が叫ばれているが、アナログにはアナログならではの良さがあるのだ。

たけおが一通り考えをまとめると、背伸びをして一息ついた。のどが渇いたので缶コーヒーを買おうと席を立った。自販機の前に移動する途中で誰かの話し声が聞こえる。

「この声は…やすしと桜庭?」

かすかに聞こえる話し声。どうやら給湯室にいるようだ。盗み聞きや盗み見は趣味ではないが気になったので気付かれないようにそっと覗いた。

「いいか。お前が問題を起こすんだ。大丈夫だ。全部池田にやってもらえればいいんだよ。あいつを地獄に落としたら俺がお前を助けてやるからよ」

「…。」

「そのあとは給料を倍にしてやるよ。くっくっく。楽しみだなぁ。あいつの顔が青くなるのが楽しみだ。」

たけおは2人のことをじっと見てつぶやいた。

「そういうことか…。はは…。」

2人に気付かれないよう、たけおはその場を後にした。たけおが会社を有休をとるまであと13日のできごとだった。