Zeronicle Story

創作した話や絵を中心に綴るブログ

創作:たけおの災難 #1

たけおの災難 #1

たけおは中小企業に勤めている男性だ。就職して9年が経ち職場では係長として頑張っていた。3年前に結婚し、家族のためにと前向きに頑張れるのは一種の才能と言っていいだろう。そんなたけおの姿を見て、彼を慕う後輩も少なくなかった。
そんなある日のことである。会社で上司との衝突があった。
上司である桜庭は、「提案をしてくれないと困る」と言い放ったのだ。たけおは部が設定したノルマを十分にクリアしていた。それなのに文句を言われたことに腹が立ったのだ。
桜庭はもともと思い出したかのように方針を変えることが多かった。なんでこんな人が上に立っているのかと思うことも少なくない。実力以上のポストに立っていることから、「社長令嬢の婚約者だから」とか、「人事に親戚がいる」とか本当かどうかわからない噂が出てくるほどだ。
いつもであれば、桜庭の言うことについて形だけでも謝罪はしていたが、この日は違った。今まで言われてきたことが積もり積もって感情が爆発したのだ。
「部が設定したノルマは十分にクリアしていますよ。数字に出ています。売り上げにも貢献していますし、文句を言われる筋合いはありませんよ。第一、ノルマを達成していない人はほかにもいるじゃないですか。」
桜庭は焦った。
「な、なんだと!ノルマを達成すればそれでいいのか!向上心がないやつだな!」
「話をすり替えないでいただきたいですね。前から思っていたのですが、桜庭さんが建てた方針がコロコロ変わることには前から迷惑しているんです。先月ですよ?部のノルマを達成できるように頑張ってほしいっていってたのは。なんでノルマを達成している私が文句を言われなくちゃいけないんですか?おかしいですよ。」
たけおは一気に言い切った。思わぬ反撃に桜庭はうろたえていた。
「くっ…!もういい!」
そういって桜庭は踵を返し自分の席に戻った。
この日桜庭はたけおに絡むことはなかった。業務が終わったので変える支度をしていると、後輩のやすしがやってきた。
「いやー、係長珍しくないですか?課長に向かって怒ってましたよね?」
たけおは少しバツが悪そうな顔をした。少し微笑んで
「ちょっと腹に据えかねてね。」
と、さらっと言った。
「見ててすっとしましたよ。どうです?これから飲みに行きません?」
たけおは首を振った。
「今日は帰るよ。妻の誕生日なんだ。」
「そうなんですか。残念。いろいろ話聞きたかったなぁ。じゃ、また今度行きましょうね。」
「あぁ。」
妻の誕生日というのは嘘である。嘘をつかずとも断ることはできたが、何かのせいにしたかった。少しした後、妻には申し訳ない気持ちがわいてきた。
たけおが家に着くと、妻のよしえが晩御飯の用意をして待ってくれていた。
「今日は少し早いね。あれ?もしかしてなんかあった?」
よしえはたけおの微妙な表情の変化を見逃さなかった。
「上司とちょっと揉めてさぁ。」
「ふーん。大変だったんだね。ごはん食べるでしょう?すぐ食べる?」
「うん。ちょっと着替えてくるわ。」
「OK」
たけおは着替えてからリビングに向かった。テーブルの上には焼いたサバとレタスのサラダが置いてあった。
「お、うまそう。いただきます」
「いただきます」
たけおは仕事が遅くなることもあったが、たいていの日はよしえと晩御飯を食べる。ご飯を食べながら、よしえがいう「今日はこういうことがあったんだよ。」という話を聞くのが好きだった。しかし、この日は桜庭との衝突があり気が少し高ぶったこともあって、この話をよしえに聞いてもらいたかった。そして、たけおにはある決意があった。
「なぁ、よしえ。」
「ん?どうした?」
「おれさ、転職しようと思う。」

つづく