この話について
この話は、以前私がnoteで公開したものを一部改編したものとなります。
【創作】とある男へのメッセージ|ゼロニクル
或る日の喫茶店で
私は知人に喫茶店へ呼び出された。なんでも奇妙な手紙をもらったのだという。それを見てほしいと。呼び出された場所に付くと、テラス席に座っている知人が見えた。私に気が付いて、軽く手を振る。知人の名前はイトウという。
「急に悪いね。」
連絡がきたのはつい先日。こんなことを話せるのは君だけなんだと早口に捲し立ててきた。
私はテラス席に座り、店員にアイスコーヒーを注文した。店員が去るのを見とどけて、イトウに向き直った。
「時間はあるから。で?その手紙って?」
「これなんだけど。俺さ、中国に行く友達なんていないわけ。全然心当たり無くてさ。」
友人から手紙を受け取る。
「何かわかるか?」
じーっと見る。
手紙の内容
イトウから渡された手紙には、次のように書かれていた。
今、私は中国にいく準備をしている。
遠くに住んでいる友人に会うためだ。
うちでのんびりと過ごしていたら、普段鳴らない電話が鳴った。こういうときは大抵悪い報せだったりするのだが、それは杞憂であった。相手は友人だった。友人はこう言った。
「今、中国の上海に住んでいるんだ。なかなか活気があって面白いところだ。お前もきっと気に入ると思う。もしよければ来ないか?」
まさかあいつが…という驚きでいっぱいだった。学生時代はインドアのイメージがとても強かったからだ。
さすがに
「はい、じゃ遊びに行きます」
と、すぐ答えを出すことはできなかったが、せっかくの申し出。めったにない契機だったので、少しの間悩んだ後、結局遊びに行くことにした。
海外旅行はひさしぶりだ。そして初めての中国。行ったことがある唯一の国はベトナムだった。
ずっと前…といっても10年くらい前か。会社の企画でベトナムに行くことになったのだ。ベトナムは活気があって楽しいといえば楽しかったのだが、食べ物は断然日本のものがおいしかったので、早く日本に帰りたかったというのが本音だ。
海外の水と日本の水は違う。だからいろいろな料理が自分の口になじまないのだろうと思った。中国料理はどうだろうか?自分の口に合えばいいのだが。いよいよ明日は中国に行く日だ。
眠りにつくことができない。一種の興奮状態なのだろう。子供のころ、遠足前になかなか寝付けなかったことを思い出す。そんなことを思いながらとりあえず目を閉じる…。何も考えない。次第に頭の中がクリアになって、しずかにゆっくりと、しかし確実に夢の中に入り込んでいった。
カラスの鳴き声で目が覚めた。時計を見ると朝の4:00。変な時間に起きてしまったものだ。まだ少し眠いが、寝たら起きることが難しくなりそうだ。このまま起きていることにした。
駅に向かうのは朝の6時。そこから電車に乗って空港にむかう。多少早いが、余裕ができたと割り切って早めに空港に向かおう。
せっかくの中国旅行。友人に会うのが楽しみだ。
(手紙の内容)
手紙の中身とは
手紙を読み終えた私は、イトウに向き直った。アイスコーヒーを一口飲んでから話した。
「君さ。金銭トラブルとかあるだろ?」
「えっ?!」
イトウの顔が青くなる。顔から汗がダラダラと垂れてくるのがわかった。これが答えだ。彼は嘘をつくことができない。すぐ顔に…いや、体に出る。
「間違いなくこれは君宛の手紙だよ。ことが大きくなる前に、お金は返した方がいいと思うよ。まぁ僕には君が何で借金したのかわからないけれど、ろくなことじゃないんだろう?」
そう言って一気にアイスコーヒーを飲み干す。
「それじゃこれで。」
そういってテーブルに千円札を置いた。
「釣りはいらない。君のコーヒー代もご馳走するよ。面白い手紙のお礼だ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
イトウが私を呼び止めた。
「た、たしかに俺には借りている金がある。しかし、なぜそれがわかったのか教えてくれないか?」
私はふぅっと溜息をついて、イトウのほうを向いた。イトウの頬に汗がつたっていた。彼の顔は真剣だった。私は手紙に込められた意味を伝えることにした。
「わかった。説明するよ。さっきも言ったけれど、この手紙にそう書いてあったんだ。」
「この誰に宛てられたかもわからない手紙にか?」
「そう。」
私はイトウの手紙をもう一度手に取り、テーブルの上に広げて見せた。
「この手紙は確かに差出人が今度中国に行く…という日記のような内容に見える。ただ、手紙を見ていると、1行開いているところが何か所かあるだろう?」
私の言葉を聞いて、イトウがうなずく。
「たしかにそうだが…。」
「この1行開いているのがキーになるんだ。この1行開くまでを1ブロックとすると、全部で12ブロックになる。そこまではいいかい?」
「あぁ。そこまでは大丈夫だ。」
「そしたらブロックの頭文字をとって、順番に読むだけだ。」
「"今遠うまさ海ず海眠カ駅せ"?何を言っているかさっぱりだが…。ん、まてよ。もしかして…。」
「あぁ。そのままじゃだめだ。ひらがなに変換する必要がある。『今』は『いま』。そしてさらにその1文字目を読むんだ。そうしていくと…。」
"いとうまさかずかねかえせ"
イトウはくしゃくしゃのハンカチで、顔全体の汗を拭った。
「そういうことだったのか。」
イトウはそうつぶやくと、前のめりになっていた姿勢から、どかっとイスに深く腰掛けた。
私はイトウに尋ねた。
「しかし、なぜこのような手の込んだ手紙を君に渡したのかわからないんだ。金を返せという催促なら、こんな暗号じゃなくて、直接伝わるような手紙にすべきだ。少なくとも私ならそうする。」
私は一呼吸おいてイトウに言った。
「もしよければ、誰から金を借りたのか教えてくれないか。心当たりがあるんだろう?」
イトウは気まずそうにいった。
「わかったよ。実は私が金を借りている相手は不倫相手なんだ。きっとこの手紙の差出人も彼女だろう。暗号化したのは、おそらく私の妻に知られないようにするための私への配慮だろう。借りた金は総額で50万ほどだ。」
「そんなに大金ってわけじゃないんだな。少し安心した。」
私はイトウの肩をたたいて、少し厳しめに言った。
「でもな…。不倫に借金。清算したほうがいいんじゃないか。それが君のためにもなると思うぞ。」
「そうだな…。そうするよ。金を返して…彼女とも縁を切る…。」
イトウは力ない声を出した。私はもう一度肩をたたいた。
「がんばれ。」
そして私は喫茶店を出て、そのまま家に帰路に就いた。時間は夕方。近くの公園では子供たちが家に帰ろうとする様子が見られた。心地よい風が肌をなでる。暑さも和らぐちょうどいい気温になった。
fin