猫糞
猫糞
ねこ‐ばば【猫×糞】
[名](スル)《猫が、糞ふんをしたあとを、砂をかけて隠すところから》悪いことを隠して素知らぬ顔をすること。また、拾得物などをこっそり自分のものとすること。「拾った物を猫糞する」
( 国語辞典より引用 )
1.
帰りの会が終わり、和也はランドセルの中に教科書とノートを詰め込んだ。小学3年生にもなるとそれなりの量になる。忘れ物がないか確認して、ランドセルを背負う。すると2人の友人が和也に駆け寄ってきた。光男と純太だった。
「一緒に帰ろうぜ!」
「うん。帰ろう。」
光男と純太は小学1年生の時に知り合った。和也たちの学年は3クラスあった。2年生の時はみんな別のクラスだったのだが、3年生になってまた一緒のクラスになった。この3人は相性が良く、喧嘩などもあまりしない。一緒にいて楽しいと思える3人組だった。
一緒に帰っている途中で、光男がうちに遊びに来ないか?と言ってきた。この日は何の予定もない。和也は行くといった。純太も
「じゃぁ、ランドセルを置いたら行くよ。」
といった。
光男はにっこりと笑って、
「実は昨日新しいカードゲームを買ったんだ。それをやろう。」
といった。学校から一番近いのが光男。その先に和也と純太の家がある。
どんなカードゲームなのか気になった和也と純太は、駆け足でそれぞれの家に帰り、ランドセルを降ろすと自転車に乗って光男の家に向かった。
光男の言っていたカードゲームは、2〜4人でプレイできるゲームで、各々が経営者となって、様々なイベントやトラブルを乗り越え、一番得点が高いプレイヤーが勝者となるゲームであった。このゲームの特徴は、ターゲットを指定してお金を巻きあげるカードや、セキュリティを強固にして妨害を防ぐなど、駆け引きが物を言うところにあった。
和也はすぐ顔に出てしまう癖があった。純太も都合が悪いカードが渡ってしまうと、顔から汗がじわじわと流れていた。光男は2人の癖を見抜いた時から、2人に負けることは無くなっていた。
あっと言う間に時間が過ぎ、外からチャイムが流れてきた。5時になると流れる町のチャイムだ。これが家に帰る合図にもなっている。
「くそー。全然勝てなかったー。」
「光男強すぎ!何か反則でもしているんじゃないか?」
なかなか勝てなかった2人が光男をにらむ。
「おいおい、俺はそんなことしないよ!2人とも顔に出過ぎなんだよ。」
えっ?というように互いの顔を見る純太と和也。その様子がおかしくて光男は笑った。
「だって、状況が悪くなると汗を流したり、顔を歪めたりするんだもの。すぐわかっちゃうよ。」
2人は声をそろえて「な、なるほど。」といった。
光男はにこりと笑って、
「その分かりやすいの。長所でもあると思うけどな。」
と2人に向けて言った。嬉しいやら悔しいやら複雑な顔をしながら、「次は負けないぞ。」と光男に言った。
「じゃ、そろそろ帰る!またね!」
「次は勝つからね!」
そう言って2人はそれぞれの自転車にまたがり、家路についた。
2.
「ただいまー」
和也が玄関を開けて、靴を脱ぎながらそう言うと、キッチンから母がやってきた。
「あれ?和也。あんた出かけてたの?」
と不思議そうに言ってきた。
「え?学校から帰ってきて、すぐに光男の家に行ったんだけど。」
母は不思議そうに和也に言った。
「変ね。私もずっといたけど…。あんたのお菓子がキッチンから無くなってたから、部屋にこもって食べてるのかと思ってたわ。」
「えっ!僕のお菓子ないの!?」
和也はショックを受けていた。母が用意してくれたお菓子は、チョコクッキーだった。サクサクとした食感に、甘いチョコレートが和也は大好きだった。それが無くなっている?もちろん自分は食べてない。じゃぁ誰が…。間違って父が夜のうちに食べたのだろうか?帰ってきたら聞いてみよう。
「和也は食べてないのね?変ね…。今日の分にと今朝分けておいたはずなんだけど。」
母はそうぶつぶつ言いながらキッチンに向かった。
「今朝分けておいた?じゃぁ、お父さんじゃないのか?」
和也は分からないことだらけになった。夜になって夕食を済ませてテレビを見ていると、父が帰ってきた。
「ただいまー」
その声を聞いて和也は玄関に走り寄った。
「おかえり。」
「ただいま。どうした難しい顔して。」
和也はダメもとで聞いてみることにした。
「お父さんさ…。僕のお菓子食べてないよね?」
父はきょとんとした顔をした。
「和也のお菓子?母さんが買ってきてたチョコクッキーのことかな?」
和也はこくりと頷いた。
「食べないよ。食べたらお母さんにも和也にも怒られるじゃないか。それに父さんはチョコクッキーより、とんがりコーンが好きなんだ。」
そういう問題じゃないんだけど…。と和也は思ったが、やはり父は犯人ではないようだ。じゃあ誰が?母が間違って食べたのだろうか?それを母に問うと
「何言ってんの。食べるわけないじゃない。」
とバッサリ切られてしまった。結局この問題は謎のまま解決することはなかった。
3.
翌日。学校の休み時間に和也と純太、光男が話していた。
「あのさ、ちょっと聞いてくれない?」
なになに?と純太と光男が興味がありそうなそぶりを見せた。はぁっとため息をついてから和也が話した。
「昨日さー。僕のお菓子が消えちゃったんだよ。」
「は?どういうことだよ。」
光男が食いついてきた。
「昨日お母さんが用意してくれたお菓子を楽しみにしてたんだけどさ。家に帰ったらなかったんだよ。お母さんは僕が食べたと思ってたらしいんだけど、ほら。昨日はランドセルを置いて光男のところに遊びに行ったから、僕なわけがないんだ。」
すると近くにいた孝徳が和也たちの方にやってきた。
「それ、もらいジジイの仕業じゃないか?家に美味しいチョコクッキーがあると食べていく妖怪なんだけど、きっとそれだよ。」
するとそれに反応した光男が孝徳に怒鳴るように言った。
「そんな妖怪聞いたこと無いぞ。っていうか妖怪なんていねーよ!」
純太も孝徳に静かに呟いた。
「たしかに妖怪なんていないと思う。」
孝徳はいそいそと去り、自分の席に戻っていった。
「孝徳くん。もらいジジイなんて誰から聞いたのかな?本当にいるのかな。そんな妖怪。」
「しらねー!和也まで何言ってんの。そんな妖怪いないって。孝徳のことはよくわからないんだよな。」
和也と光男は孝徳と同じクラスになるのは初めてだ。純太は2年生の時に孝徳と同じクラスだった。
「僕は孝徳くんと同じクラスだったけど、確かに孝徳くんにはよくわからないところがあるかも。何考えているかわからないんだよね。あまり話さないし。友達とかいるのかな。2年生のころは、”嘘つき孝徳”って言われてた。」
そんなことを話していると休み時間が終わった。
授業を終え、給食を食べて帰る時間になった。
「和也と純太さ。今日もうちに来ないか?またゲームやろうぜ?」
純太は行くと即答したが、和也は用があるからまた今度。と断った。この日は和也の水泳教室だった。
「あぁ、そうだったか。残念だ。」
「また今度遊んでよ。」
「おうよ。」
こうして3人は一緒に話しながら帰ることになった。
その翌日。
教室に入ろうとドアを開けたら、朝から純太と光男がお互いの胸倉を掴んで喧嘩をしていた。それをみた和也は、慌てて2人のところに駆け寄った。
「おいおい!2人ともどうしたんだよ!?光男も純太も落ち着いてよ!」
和也は困った顔をしていた。周りもどうしていいか分からないといった顔をして、そわそわしている。
「光男が僕のことを泥棒っていったんだ!」
普段は物静かな純太が興奮している。光男も興奮しているようだ。
「あぁ!?本当のことだろう?俺のおもちゃ盗んだくせによー!」
「え?光男のおもちゃが無くなったのか?」
和也が光男に問う。
「あぁ、そうだよ。お前たちとやってたあのカードゲームが無くなったんだよ。俺がトイレに行って戻ったらな!」
「だから僕は取ってない!泥棒じゃない!」
そういって純太は光男の顔を叩いた。純太の手は光男の鼻に当たり、光男は鼻血を出してしまった。友達に殴られたショックで光男は泣き、純太も泥棒と言われたことがショックで泣いてしまった。和也は2人が泣くところを初めて見た。
そこに荒木先生がやってきた。荒木先生は和也たちの担任で、ベテランの女性教師だ。普段は優しいが、怒ると怖い厳しい先生である。
「あらあら!何があったの?みんな席についてね。」
光男は荒木先生に泣きながら言った。
「純太が…俺のおもちゃをとったんだ…。だから、俺…純太のことを泥棒って言ったんだ。そしたら顔を叩かれた…。」
純太も泣きながら、荒木先生に訴える。
「僕は取ってないし泥棒じゃないのに…。光男が泥棒泥棒いうから嫌な気持ちになっちゃって。顔を叩いちゃったんだ。」
荒木先生は2人の言い分を聞いている。
「光男くん。純太くんがおもちゃをとったところを見たのかな?純太くん。純太くんは本当に光男くんのおもちゃを取ってないのよね?」
純太は荒木先生の眼を見て言った。
「僕は本当に取ってないよ。」
和也も純太が嘘をついているようには見えなかった。
光男も泣いた眼をこすりながら荒木先生の眼を見ていった。
「純太がとったところは…見てない。でもトイレから戻ったら無くなってたんだよ。昨日は純太しかいなかったのに。」
すると、光男の近くに住んでいる光男の幼馴染のサツキが光男に言った。
「え?もう1人いたじゃない。私、見たよ。光男の家に入ってく男の子。あれは純太くんじゃなかったと思うけど。」
と、そこで始業開始のチャイムが鳴った。
「はい、チャイムが鳴りました。朝の会をはじめます。と、そのまえに。純太くんと光男くん。ちゃんと仲直りしてね。」
光男と純太はそれぞれうつむきながら静かに言った。
「純太…。その…。泥棒って言ってごめん。」
「うん…。僕も叩いちゃって…。ごめん。」
2人は静かに仲直りをした。
「それにしてもサツキちゃんがみた男の子って誰だろう?」
和也はこの日、一日中そのことを考えていた。
4.
この日の学校が終わった。和也はサツキのところに駆け寄った。
「サツキちゃん。今、ちょっといいかな?」
サツキは和也に向き直った。
「ん?何?」
「あのさ。朝に光男の家に、「純太の他に人がいた」って言ってたけど、誰なのか分からないかな?」
サツキは上を見てうーんと唸った。
「顔は見えなかったけど、同じくらいの子だったかなぁ。服装は男の服装だったと思う。あ、あとランドセルはしょってた。黒の。」
「そっか。サツキちゃんありがとう。」
和也はサツキに礼を言って光男と純太のところに駆け寄った。光男と和也は、朝のこともあって少しぎこちない。和也にはお互いにどのように話せばいいか分からないといった様子に見えた。
「光男、純太。朝、サツキちゃんが”純太じゃない子が光男の家にいた”って言ってたじゃん?サツキちゃんから詳しいことを聞いてきたから今から話すよ。」
光男と純太は和也に向き直った。2人は揃って言った。
「うん。」
「純太、本当にごめんな。」
「ううん。僕の方こそごめん。光男。」
和也はにこりと微笑んだ。
「サツキちゃんが言うには、純太の他にいた子っていうのは、顔は見えてないんだけど、僕たちと同じくらいの男の子らしいんだ。ランドセルが黒だったらしい。」
「俺たちと同じくらいの男?」
「もしかしたら同じクラスなのかな?」
「うーん…。」
3人は黙り込んでしまった。静寂が周りを包む。
「その子が犯人だったとして、なんで光男のおもちゃをとったんだろう?」
「知るかよ。」
「何でもよかったのかな」
和也は頭をフル回転させ、今までの情報から何か導き出せないか考え出した。
和也は前を向いた。
「あのさ。ちょっと試したいことがあるんだ。もしかしたら犯人を捕まえることができるかもしれない。」
「なんだって?」
光男と純太が前のめりになる。
和也は犯人を捕まえるための作戦を光男と純太に説明した。
「…やるのはいいけどさ。これ、本当に捕まるの?」
「っていうか、誰が犯人か分かってるの?分かってるなら教えてよ。」
和也は犯人と思っている人間のことを伝えた。光男と純太は驚きながら
「たしかにそうかも…。でもびっくりしたな。」
「なんでおもちゃをとったんだろう?」
純太と光男は驚きを隠せなかった。おもちゃをとった動機も分からない。
「それは捕まえてから聞いてみよう。」
「そうだな…。」
そしてこの日は解散となった。
5.
翌日。
この日の授業が終わり、帰りの会も終わろうとしていた。荒木先生の連絡事項では、「最近変質者がいるのでなるべく1人で帰らないこと」という注意事項が伝達された。「おじさんが車の中から道案内をお願いする」とか、「お菓子を配るお婆さんがいる」とか、「夕方裸になるおじいさんが出る」とか、そういう話をしていた。荒木先生は、「いずれにしてもまともに対応をせず、逃げたり大人に助けを求めるなりしてください。」というようなことを生徒に伝えた。
和也は「そんな大人たちがいるのか。怖いなぁ」と深いため息をついた。
帰りの会が終わると、すぐさま光男と純太がやってきた。
光男は机に手をついて、和也と純太に向かって話した。
「学校終わったなー。何する?」
和也は机の中に入っている教科書やノートをランドセルに詰めながら言った。
「今日は特に何もないからね。なんでもいいよ。」
純太は申し訳なさそうに
「今日はちょっと家でやりたいことがあるからこのまま帰るよ。」
といった。
「そっか。残念だ。じゃぁ、和也。うちに来ないか?うちでおかしでも食べながらゲームしようぜ。」
「お、いいね。」
こうして3人は一緒に帰宅することになった。そして彼らの50m後方には、小さな黒い影がゆらゆらとついていくように歩いているのであった。そして、光男は家に着いた。
「じゃ、準備して待ってるから。すぐこいよ!」
「わかった。今日はしっかりと鍵かけてから光男の家に向かうよ。じゃ、純太。また明日ね。」
「うん。じゃあね、和也、光男。」
こうして光男は2人と別れ、和也と純太もそれぞれの道を歩いて帰ることになった。
和也は家につくと、ランドセルを置いて母に光男の家に行くことを伝えた。
「じゃ、光男の家に行ってきまーす。」
「あら。分かったわ。5:30には帰ってくるのよー。」
「分かってるって」
和也は自転車にまたがり、光男の家に向かった。
「光男ー。来たぞー。」
「はいはーい。ちょっと待ってて。」
光男がドタドタと走ってやってきた。
「お待たせ。どうぞどうぞ。」
2人は今話題のゲーム「ポーチモンスター」をやることにした。このゲームはポーチモンスターと言われるモンスターを集めたり、集めたモンスターを育てて対戦することができるゲームだ。コレクション要素が長く遊べると評判なのと、またモンスターのデザインがかわいいということでアニメ化や商品化が活発なのが特徴だ。小学生たちにはかっこいいポチモンを持っていることがステータスとなっており、それは和也や光男にとっても例外ではなかった。この日は光男のポチモンと和也のポチモンを戦わせて遊んでいた。
「ぐぬぬ…。和也のポチモン強いな…。」
「はっはっは。この間の借りは返したぜ。」
「そのゲーム、もう無いけど…。」
光男はしょんぼりしてしまった。いたたまれなく成った和也は、そろそろ帰ると光男に告げた。
「うん…。わかった。」
光男はしょんぼりしたままそう答えた。
「じゃ、お邪魔します」
「おう…。また明日な…。」
和也は玄関を出て自分の自転車に向かって帰って行った。光男は和也が家を出たのを見届けた。
「和也も帰っちゃったし、トイレに行くか。」
そういって光男はトイレに行った。その直後のこと。何者かが光男の玄関のドアを開けて入ってきた。
「和也くんも帰って、光男くんもいない…。今日は何して遊んだんだろう?」
そう言って何者かは和也と光男が遊んでいた部屋にたどり着く。そしてテーブルの上に置いてある物を見た。
「今日はポーチモンスターで遊んでいたのか…。僕も欲しかったけれど持ってないんだよな。もらっておこう。」
そうして何者かはポーチモンスターのカートリッジをポケットの中に入れた。その時だった。
カシャッ!
その音に反応する何者かは音がした方を振り向いた。そこには携帯カメラを男に向けている光男の姿があった。
「あっ…あっ…。」
気が動転した男は、駆け足で光男の家の玄関を目指した。そして玄関を開けた時だった。
そこには和也と純太が待ち構えていた。
「な、なんで…。なんで和也くんと純太くんがいるんだ!?」
驚いてへたりと座り込んだ男。その男は同じクラスの孝徳だった。
「そんなことより、今取った俺のポチモン返せ。」
光男は孝徳を立たせると、男のポケットの中からポチモンのカートリッジを取り出した。
「そ、それは僕のだ!」
孝徳が必死に訴える。
「今、僕がプレスイを持っているから、この場で確かめよう。」
孝徳はだんまりとなった。純太のプレスイに孝徳のポケットに入っていたポチモンをセットしてスイッチをONにした。ゲーム機のロゴが出た後、ポチモンのタイトルが表示された。そして、ロード画面に行ってセーブデータを見ると、そこには光男の名前が表示されていた。このゲームは紛れもなく光男のゲームだった。
「どういうことか説明してもらうぞ。孝徳。」
光男は静かに。しかしはっきりといった。孝徳はがっくりと肩を落とした。
「俺も…本当は遊びたかっただけなんだ…。」
孝徳は力なくつぶやいた。
6.
孝徳の家は決して裕福ではなかった。父は毎日のように酒を飲み、ことあるごとに母に文句を言っては困らせていた。働いてはいたが、給料の大半は父親の酒と趣味である競馬に注ぎ込まれていた。そのため、自分のおもちゃなんていうものは存在せず、日々の食事でさえぎりぎりの状態であった。母親も懸命に働いてはいるが、その金も父に使われていた。
「僕、こんな家だからさ。おもちゃなんて持ってないんだ。そんな時、和也くんたちの話が聞こえて。めちゃくちゃ楽しそうだなって思った。だから、少し前の和也くんと純太くんが光男くんの家にいく日、仲間に入れてほしくて和也くんのあとをついていったんだ。」
和也は黙って聞いている。他の2人も孝徳を見ていた。
「だけど、結局話しかけられなかった。気が付いたら和也くんの家の前に来ていた。和也くんがランドセルを置いてすぐ出てったのを見て、何となくドアを引いたら開いちゃったんだ。そこで和也くんの家がどういう風になっているか興味が出てきた。リビングのドアが半開きになっていたから、そーっと開いたら、和也くんのお母さんがテレビを見てて笑ってた。カウンターにお菓子が見えたからそっと手を伸ばして持って帰ったんだ。」
和也は空を仰いだ。
「お母さん、気づいてくれよ…。」
孝徳は再び話し始めた。
「そしたら今度は次の日だね。光男くんと純太くんが遊ぶというのが聞こえたから、僕も一緒に遊びたくて純太くんの後ろについていったんだ。でもなかなか話しかけることができなくて。純太くんが光男くんの家に入ったのを見て、僕も入ったんだ。」
光男は驚いた顔をして、孝徳に行った。
「え!お前ずっと俺ん家にいたの?!」
「う、うん。だけど結局一緒に遊ぼうと言えなくて…。2人がカードゲームをやっているのを見て僕も欲しくなったんだ。純太くんが帰って、光男くんがトイレに行ったとき、ついついカードゲームを手に取ってポケットに入れて帰ったんだ。
純太が孝徳に厳しい口調で言った。
「ついついじゃないよ!僕は…僕は光男に泥棒って言われたんだぞ!光男のこと叩いちゃったんだぞ!」
そのときだった。ピンポーンと家のチャイムがなった。光男が玄関に行き、チャイムを鳴らした人を連れてきた。その人は荒木先生だった。
「お邪魔します。遅くなってごめんなさいね。孝徳くん。勇気を出して話してくれてありがとう。あなたも一緒に遊びたかったのね。だけど人のものを勝手にもっていくのはルール違反だと先生は思うわ。あなたはどう思う?」
孝徳はしばらく黙った後小さな声で呟いた。
「…。いけないことだと思います…。ううぅ…。」
孝徳は涙声になった。そんな孝徳に向かって荒木先生が孝徳に話しかけた。
「そうね。いけないことをするとね。信頼・信用というものががくんと落ちるの。そして落ちたものはなかなか元に戻せない。それくらい大変なことなのよ。」
「…。はい。」
荒木先生は目線を孝徳から和也、光男、純太に移した。
「あなたたちは孝徳くんを許せるのかしら?」
「もうこんなことしないと約束してくれるなら許します。」
と和也が力強くいった。
「俺も許すよ。これから正直にいってくれればそれでいいよ。でもカードゲームは返してほしいな。はは…。」
と光男が言った。
「僕も許すよ。同じクラスじゃないか。もっと話してよ。」
と純太が言った。
孝徳は泣きながら、
「みんな、困らせちゃってごめん。物をとってごめん。」
と改めて謝罪した。
荒木先生は生徒たちの謝罪が一通り終わるのを見届けたあと、和也に言った。
「和也くん。先生を頼りにしてくれてありがとう。最初はびっくりしちゃったけど、こういう風に解決できてよかったわ。」
和也は恥ずかしそうに照れた。
「それにしてもなんで孝徳くんがやってくるってわかったのかしら?」
和也は荒木先生に向かって言った。
「僕のお菓子が無くなった次の日、孝徳がもらいジジイのことを話したんです。」四
「もらいジジイ?」
「はい。孝徳がそういう妖怪がいるって言ってたんです。」
「孝徳くんが考えた妖怪なのかしら。」
「おそらくそうだと思います。その妖怪がどんな妖怪なのか孝徳が説明したんですけど、孝徳はこう言っていました。『家に美味しいチョコクッキーがあると食べていく妖怪』だって。」
和也が続ける。
「僕はお菓子が無くなったとしか言っていないのに、「チョコクッキーが無くなった」ということを知っていたんです。このことは光男にも純太にも、この学校の誰にも言っていない。分かっているのは僕と家族と…。そして犯人だけなんです。」
「そうだったのね。」
荒木先生が感心しているようだった。
「犯人を捕まえるだけなら僕たちだけでもできるんだけど…。この先どうしたらいいか分からないから先生に相談しました。」
荒木先生はにっこり笑った。
「先生のこと。どんどん使いなさい。生徒たちのために先生がいるんだから。」
和也はにっこり笑った。
「はい!」
こうして先生は車に乗って帰宅していった。和也と純太、そして孝徳も各々の家に帰ろうとしていた。
「じゃ、またな。みんな!」
「うん。また学校で。」
「今度はみんなで遊ぼう。」
「本当にみんなごめんね。」
「いいんだよ。じゃ、気を付けて帰れよ!」
「うん。ばいばーい。」
こうして、各自が各々の家に帰って行った。
手を振りながら見送る光男。そのとき、孝徳の後ろに黒くて大きな猫がいることに気付いた。やがてその黒猫は孝徳と一緒に光男の家の門から出ていき、やがて孝徳とも別れるのであった。